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大阪高等裁判所 昭和35年(ラ)259号 決定 1961年6月20日

抗告人 門野寅治郎

主文

本件抗告は、いずれもこれを棄却する。

理由

本件抗告の趣旨、及び理由は別紙忌避却下決定に対する即時抗告状記載のとおりであつて、これに対して当裁判所は次のとおり判断する。

本件忌避の申立が訴訟遅延を目的とするものであつて、明かに忌避権の乱用であると認めざるを得ないことは、この点に関する原決定の判示するとおりであるからこれを引用する(原決定二の部分たゞし二の(二)のうち原決定六枚目表第九行目以下、及び二の(三)のうち原決定八枚目裏十三行目より九枚目表十一行目までを除く)抗告人は、忌避の申立を受けた裁判官が各自に対する忌避申立を却下したのは、違法無効であると主張する。

案ずるに本件忌避の申立は、裁判官平峯隆、同中村三郎、同上谷清の三人に対するものであつて、原審は右三裁判官の構成する合議体において、この申立を却下したものであるが、忌避の申立は個々の裁判官に対するものであるから、本件忌避の申立は、すなわち右三裁判官各自に対しそれぞれなされた三個の申立が併存しているものと見るべきであり、従つてまた、原決定においては、忌避された裁判官がそれぞれ自己に対する忌避の裁判に関与したことになる。

そして民事訴訟法第四十条は忌避された裁判官が、その裁判に関与することを禁じているが、この規定は忌避権が正当に行使された通常の場合を前提としたものであつて、本件におけるように明かに忌避権の乱用と認められる場合においては、必しも右規定に拘束されるものではないというべきである。けだし権利の乱用は正当な権利の行使でないのであるから、これに対する裁判も通常の場合に比して簡略な方法でなすことが、できるものと解せざるを得ない。もつとも一人の裁判官で構成される裁判所において忌避の申立をその裁判官が裁判することは、非難された裁判官が自ら単独でこれに対する判断をすることゝなるから、裁判の性質上特別の規定のない限り許されないというべきであるが、合議体の裁判所において、これを構成する一裁判官が忌避された場合には、その裁判官が他の裁判官とともにこれについての裁判に関与することは、自己に向けられた非難を自分ひとりで判断することにはならないのであつて、必しも許されない性質のものではない。(三裁判官に対する忌避の理由が異なる場合はもとより、本件におけるように同一の理由である場合も、この点について別異に解することはできない)

たとえば民事訴訟法第百二十九条は、裁判長の弁論の指揮に対する異議申立についての裁判に、その裁判長の関与することを禁じていないのである。

以上説示したところにより考えて見ると、忌避権の乱用と認められる場合においては、忌避の申立についての裁判は、忌避された裁判官を含めて構成される裁判所がなし得るものと解すべきである。(刑事訴訟法第二十四条参照)

なお抗告人は原決定は大阪地方裁判所昭和三十五年度事務分配の取決に反し、不当に裁判管轄を独断した違法があるというが、仮りにその事実ありとするも右取決は裁判所の内部的な事務の分配を定めたものにすぎないから、これに違反するところがあつても、直ちに管轄権のない裁判所が裁判をしたという違法をきたすものではない。

本件抗告はいずれもその理由がないから、主文のとおり決定する。

(裁判官 大野美稲 岩口守夫 藤原啓一郎)

抗告の趣旨

原決定を取消す

大阪地方裁判所昭和二三年(行)第八六号農地買収不服事件の同三十五年四月十八日午前の同庁第三民事部の公判に於て原告代理人の裁判長裁判官平峯隆裁判官中村三郎裁判官上谷清に対する忌避は其の理由あり

との決定を求める

抗告の理由

抗告人の行ふた忌避申立の事由は原審に提出した疏明書の通りである尚不備の点は此抗告受理の上補正すべし

原決定は我国民事訴訟史上先例なき刑訴第二四条の簡易却下決定か民事訴訟に於て許容されるものとし忌避申立を受けた三名が自画自賛的文辞を用ゐ各自に対する忌避を理由なしとし却下したことは違法無効の裁判である尚原審は大阪地方裁判所の昭和三十五年度事務分配の取決に反し不当に裁判管轄を独断したる違法あるものである

仍て至急本抗告の当否につき審判を開始されたく尚忌避の事由の存否については審訊あらむことを望む

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